でっかいどう全裸紀行

「ねえなんで?! なんでそうなったの?!」
 目の前で非常にすがすがしい表情で悦に入る友人は、フッと鼻で笑った。
「人間としての使命を感じた」
「すごく厨二くさくてそういうところすごくいいと思うよ! よくわかんないけどなんかわかった! でもさあ!」
 僕は額に手をやる。バカだバカだとは思っていたが、こんなにバカだとは思わなかった。
「だからって真冬の北海道に来てわざわざ脱ぐ?! ねえ脱ぐ?!」

 旅行に行こうと言ったのは僕だった。じゃあどこへ行こうときかれて、はじめ僕は「長野へ行きたい」と言ったのだ。人生で経験のないスキーとかいうリスキーでファンキーでハイなスポーツ(スポーツは総じてリスキーでファンキーでハイだけど)がやってみたかったからだ。でも相手は違った。
 雪深いのが見たいと友人は言った。西日本出身の彼は(特に彼は南九州の人間だった)雪なんか早々見たことがないからと長野を断った。長野も雪があるのになと思ったのだが、あとからきいたところ、長野が豪雪地帯であることを知らなかったらしい。バカな友人らしいといえばらしいのだが。
 じゃあどこがいいのと逆に聞き返したら、雪なら北海道だろうと言った。それだけだった。それだけで僕らは旅行を計画し、飛行機に乗った。

 そうしたら到着した日(予約した飛行機が機材遅れで遅くなって、だいぶ遅くについてしまった)に吹雪いて、明日はいっぱい積もりますなあと民宿のバンで迎えに来てくれたおじさんが言った。タイヤのチェーン文化におおおと歓声を上げながらの乗車だ。そのうえにそんなことまで言われてしまったらテンションが上がった。
 風呂に入る間も窓からのぞく降雪がなかなかの勢いで降りしきっているし、僕はともかく友人の中でのボルテージはうなぎのぼりだ。
 そのうえでの今朝だ。窓を開け放った午前五時、民宿の前は天高く雪が積みあがっていて、さぞ友人は喜ぶだろうと心沸き立っていた。
 おい、と声をかけてやろうとして、背後に友人がいないことに気が付いた。風呂にでも行ったのかと思ったが、キッチンで熱いお茶を、チェックアウト時に返す約束で水筒に詰めてもらっていたらしい。
 それと小さめのかばんを下げて、友人は満面の笑みで僕を誘う。
『ちょっと散歩行こうぜ。今ちょうど除雪機が前通ってるらしいから、湖のほうまで出られるって』
『行くか? 湖の上歩くって言ってたよな。さすがに凍ってんだろうなー』
『湖の上であっついお茶飲んで、なんかきらきら光ってんの見たかったんだ、行こうぜ』
 民宿の人に長靴を借りて歩き始めたのが、小一時間前の話。

「それでなんで脱いでるわけ!! なあ!! 今何度かわかってんの?!」
「マイナス……かな?」
「余裕だわ!! 余裕でマイナスだわ!! 怪訝な顔してんじゃねえぞふざけんなこのフル●ン!!」
 茶かけるぞ!! なぜか友人の着替えごと持っていた水筒を開けるしぐさをする。
「え? でもほら見て! ●んこ光ってる!」
 ほらと指さす先は、友人自身の股間だ。普通ならまあそういうアレがあるところが、見事な光で覆い尽くされ、まるでなにもないようにすら見えた。
 まばゆい光はさながら神聖な光に見えた。光っている場所がアウトだが。
「修正だよ!! 修正入ってんだよ!! よい子のみんなにお前の粗●ンが露呈しないように気を遣ってんだよ!」
「粗●ン? それはひどいだろ、少なくともお前よりは三セン」
「あーーーーっ!!」
 もうしゃべるな、聞きたくない。僕は耳をふさいですべてを遮った。光る股間も露わな胸の突起も見たくなかった。というかあいつあんなに胸毛あるとか知らなかった。むしろ生えすぎで乳首がない。どうしたその毛。どこのアデランスで植毛した。
 ていうかなんであいつが僕のアレの長さを知ってる。
「大丈夫だよ、お前の●ん長なら昔から毎日測り続けているのだから」
「頼む死んでくれ」


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