箒の柄 ―独白―

 好きな人の好きな人を聞くことほどマゾヒスティックな経験もないと思う。あまつさえ酔った勢いでどこが可愛いかとか、何回その相手で抜いたかとか、聞きながら笑顔で言葉を返すなど、嫌いなトマトをたらふく食べるようなものだとも思う。
 しかしわたしはそうやって自分を殺すのが好きだった。ねちねちとしつこく自分に鞭打ち、可哀想にと自分を慰めるのがこの上なく幸福に感じた。すると興奮した。いつものところが濡れて、たまらない気分になった。そういう性癖だった。  つまりわたしは変態だった。自虐癖の強い豚だった。
 例えばここに一枚のTシャツがあったとしよう。明らかに想い人の銘の刺繍入りの使いかけ。 君なら匂いを嗅ぐのが変態だというだろう。しかしわたしはそれを二度と着られないくらいに引き裂いて、そして二度と着られない、あの人がもう二度と着ないことに興奮する。
 そういう刹那的なことに性的興奮を覚えた。
 夕べはそんな状況だった。正直息をするのも苦しいくらいに折檻された気分だった。かつてないほど下半身がぐしゃぐしゃになって、いっそ箒の柄で思い切り突いてほしいくらいだった。
 だから自慰に耽った。真夜中、もう誰も起きていないなかで声を殺して絶頂を噛み締めた。クーラーも切って、頭が痛くなるほど達した。噛み殺せなかった呻き声が鼻から抜けるように漏れた。
 終わったあとでティッシュを引き抜くのに貧血でふらつくくらいに消耗した。すり減らしたのは多分神経とかいうのではなくて美しさだった。 まるで綺麗事だが、わたしは失ってしまったと思った。もう手に入らない純潔を思うとまた熱くなった。
 恋をすることは淫乱になることだ。少なくともわたしはそうだった。穢れなき美しさは恋をする前にしかない。恋を一度始めてしまえばもう奈落に転げ落ちるように自慰に耽る。
 だから今自慰をしている。わかるかな? また失恋だよ。失恋をしなければ達することができない。皮肉だ。
 恋を失うことでわたしは快感を得ている。真性のマゾだよ。君たちがバカにする部類だ。しかしわたしはサディスティックに鞭打たれたり蝋燭を垂らされたりして感じるわけではない。それだけは覚えておいてほしい。
 ところで君はまさかその箒の柄でわたしを突こうなんて思っていないね?

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